チャート上のあらゆる判断の裏には、何をもって大きな動きとするかという前提が隠れています。50セントの押しはある銘柄ではノイズで、別の銘柄ではトレンドの崩壊です。その差は意見ではなくボラティリティです。アベレージ・トゥルー・レンジはそこに数字を与えます。ウェルズ・ワイルダーが1978年、RSIを生んだのと同じ著書で紹介したもので、いまもあらゆるプラットフォームに残っているのは、ほかのツールが当然の前提としている問いに答えているからです。
ATRが測っているもの
ATRは、直近N本のローソク足について、価格が一本で進む平均距離を、その銘柄自身の単位で表したものです。株式でATRが4.20なら、典型的な足は端から端までおよそ4ドル20セントに広がるという意味です。通貨ペアでATRが0.0011なら11ピップスです。上限も下限も中立水準もありません。何かの尺度ではなく距離そのものであり、距離に中間点は存在しないからです。
トゥルーレンジ:高値引く安値では足りない理由
ローソク足の値幅は、高値引く安値という単純な引き算に見えます。価格が窓を空けて始まるまでは。ある銘柄が100で引け、決算を嫌気して翌日94で寄り付いた場合、市場は6ドル動いているのに足の幅は1ドルしかないこともあります。トゥルーレンジは三つの距離のうち最大値を取ることでこれを解決します。当日の高値引く当日の安値、当日の高値引く前日終値、当日の安値引く前日終値です。後ろの二つは窓を捉えるためだけに存在し、だからこの指標は単なるレンジではなくトゥルーレンジと呼ばれます。
平均という部分と、14という数字の意味
既定の期間は14本で、ワイルダーが何にでも用いた平滑化が掛かっています。新しい足が来るたび、過去を捨てずに平均が更新される仕組みです。期間を短くすれば反応は速くなりノイズも増え、長くすれば落ち着く代わりに環境変化を認めるのが遅くなります。大切なのは、期間が変えるのは気づく速さだけで、指標が測っている対象は決して変わらないという点です。多くのプラットフォームは14で出荷され、ほとんどのトレーダーは触る必要がありません。
数字で見る具体例
ある銘柄の日足3本を例にします。1本目:高値52.00、安値50.00で、トゥルーレンジは2.00。2本目は51.50で引けた後に窓を空けて始まり、52.50から54.00の間で推移します。高値引く安値は1.50にすぎませんが、高値引く前日終値は2.50なので、トゥルーレンジは2.50です。3本目:高値53.80、安値51.80、前日終値53.60で、三つの距離のうち最大は2.00です。3本のトゥルーレンジの単純平均は2.17です。14本ではプラットフォームがワイルダーの平滑化で同じことを行いますが、読み方は変わりません。ATRが約2.17ということは、この銘柄は普通の一日で2ドル強動くということです。
ATRが教えてくれないこと
方向は教えてくれません。急落する相場も急騰する相場も、同じようにATRを押し上げます。どちらも距離を進んでいるからです。買われすぎ・売られすぎのゾーンもないので、高い数値は売りサインではなく、低い数値も買いサインではありません。さらに、生のATRは銘柄間で比較できません。600ドルの株の4.20は静かな一日ですが、20ドルの株の同じ4.20は大荒れです。比較したいならATRを価格で割り、パーセントで読みます。
ATRを損切り幅に変える
この指標が真価を発揮するのはここです。固定ポイントで置く損切りは恣意的です。同じ幅が静かな相場では余裕たっぷりでも、速い相場では自殺行為になります。ATRの倍数、一般には1.5倍か2倍で置く損切りなら、銘柄にも局面にも自動で適応します。その幅が決まれば、ポジションサイズはそこから導かれます。1トレードあたりの許容リスクを損切り幅で割れば株数や枚数が出ます。負けトレードのコストを実際に管理できる唯一の手順がこれです。
ATRから損切りとポジションサイズへ
これをトレードに落とし込みます。ATRが2.00で、50.00で買いエントリーする場合、1.5 × ATRの損切りは3.00下の47.00に置かれます。口座残高10,000で1トレードあたり1%のリスクを取るなら、リスクにさらす金額は100で、100を損切り幅3.00で割ると33株(33.3を切り捨て)になります。ATRが4.00に倍増すると、同じルールで損切りは6ポイント離れた44.00になり、ポジションは16株に減ります。リスク額は100のまま、損切り幅は相場に合わせて伸び縮みします。エントリー価格とATRベースの損切りをポジションサイズ計算ツールに入力すれば、割り算と端数処理をやってくれます。
同じ数字でも局面が違えば意味が変わる
ATRの数値は、自分自身の履歴と比べて初めて意味を持ちます。同じ値でも、その銘柄がどの水準で推移してきたかによって拡大にも収縮にもなります。読むべきは変化です。動く前に溜まっていくボラティリティか、レンジが成熟するにつれて枯れていくボラティリティか。次の自然なステップは、ATRを単独で読むのをやめ、ほかのものをATR単位で測り始めることです。たとえば価格が移動平均からどれだけ伸びたか。これによって、曖昧な「伸びすぎ」の感覚が、銘柄や時間軸をまたいで比較できる数字に変わります。